こんにちは。診療放射線技師をしている者です。(レントゲン技師と言った方が伝わりやすいでしょうか。)
このサイトをご覧頂いている方の中には、
病院での画像検査について
「被曝が心配」「なんでこんなことするの?」というような疑問を持っている方がいらっしゃると思います。
このサイトでは、病院の現場での経験や知識を生かして
病院で検査を受けるときに
「被曝したくない」
「被曝がこわい」
と感じる患者さんに
正しく被曝について知っていただくために
コンテンツを増やしていく予定です。
また、医療従事者を目指す学生の
勉強の手助けになれば幸いです。
PET検査
体内に放射性薬剤を投与し、専用の装置で放射性薬剤の体内分布を画像化する検査です。
主な例として、
18F-FDGという薬剤を使用して、腫瘍の糖代謝を画像化するものがあります。
腫瘍細胞は、正常細胞と比較してこの薬剤を取り込みやすく、また放出しにくいため、画像上で薬剤が集まった腫瘍細胞の位置がわかるというものです。
CT検査
Computed Tomography の略で、コンピュータを用いて身体の断層画像を作る装置です。X線を360度の方向から回転しながら身体に当てて、身体を透過したX線の情報を三次元的に処理して、撮影後に、任意の方向の断層画像を得ることができます。
MRI検査とは
そもそも、MRIとX線を用いた検査(レントゲン、CT)との違いについてですが、X線撮影では人体にX線を照射し、その透過・吸収の度合いの違いがフィルムに記録され画像となります。MRIではX線を用いず、人体に磁場(ラジオ波)を当てることにより生じる身体の中の組織の磁気的な性質の違いを、機械が電気信号としてとらえ、画像を作ります。
造影剤とは
体の悪い部分や血管をより明確にするために使う検査薬のことで、主に血管注射で体内に入れます。
副作用が出ることがあります。
造影剤の副作用
副作用 | 症状 | 起こる確率 |
軽いもの | 吐気・かゆみ・発疹 | 0.05~0.4% |
重いもの | 呼吸困難・血圧低下 意識障害・NSF | 0.01%以下 |
※NSF(nephrogenic systemic fibrosis)
腎性全身性線維症
造影剤の副作用の出方は人により様々です。
アレルギー体質の方も副作用が比較的出やすいため、検査の前に主治医に相談しましょう。
授乳中の方で造影剤を使われた方は、検査後24時間は授乳を控えるほうがよいです。
同じ日に複数の造影検査をする場合、身体や画像に影響を及ぼすことがあり
十分な時間を空けて検査をする方がよいとされます。
※もし造影剤の副作用が出たときに、どの造影剤に対して副作用がでたのか分からなくなることを避けるという理由もあります。
どうしても同じ日に複数の造影検査をする場合
CTとMRIが同日にある場合
X線ヨード造影剤は、MRI画像への影響を及ぼす(T1短縮効果、T2短縮効果)ため、
MRI検査を先に行う方が良いようです。
MRIとX線
MRIでのGd造影剤はX線検査への影響は少ない(コントラスト増強効果は小さい)が、
X線検査を先に行う方が良いでしょう。
核医学とMRI
MRIのGd造影剤の影響で、核医学Gaガリウムシンチグラフィを行うと、本来とは異なる分布をするという報告があり、
核医学Gaシンチグラフィの後にMRIの造影検査をする方が良いようです。
またはGd造影剤が身体からすべて排泄されてからGaシンチグラフィをするべきでしょう。
MRI検査の注意
心臓ペースメーカー、人工内耳、妊娠中の方は基本的にMRI検査を受けられません。
MRIの強力な磁力により、体内の人工物が壊れたり、熱を帯びたりする可能性があります。
また妊娠中の検査の安全性については確立されていません。
人工物もチタンなど、非磁性体の素材でできているものであれば検査は可能ですが、安全に検査を行うために
体内に人工物がある場合は事前に主治医、医療スタッフにその旨を伝えておくべきです。
金属をはずす理由
MRIは磁石を用いて画像を作りますが金属があることが磁石が作る磁場が乱れてしまい、画像が歪んで診断ができなくなってしまいます。
また磁場により金属が熱をもち、患者さんが火傷をする可能性もあるため、金属はすべてはずすことになります。
コンタクトレンズをはずす理由
コンタクトレンズには成分として酸化鉄などの金属を含むものがあります。金属をはずす理由と同じで、コンタクトレンズも外してもらうことになります。
湿布をはずす理由
湿布の外層にアルミニウムが使用されているものもあり、火傷を引き起こす原因になるため、湿布も外すことになります。
大きな音が鳴る理由
MRIでは磁場を作るために、電磁石に電流を流したり止めたりしながら画像を作ります。この電流によってコイルが振動して
音が鳴ります。撮像する条件によって電流の流し方が変わり、それにより生じる音にも様々な種類があります。
身体が熱くなる理由
MRIでは磁場を身体に当てることで身体内の原子(プロトン)に変化を与え、その変化をとらえて画像を得ています。
この身体に当てられている磁場(RFパルス)のもつエネルギーが身体に熱として吸収され、身体が熱くなります。
このRFパルスはラジオで使われている電波と同じであり、基本的に身体には無害です。
MRI検査では放射線を使っていないため、被曝もありません。
CTとMRIの違いについて
よくこの2つを勘違いされている患者さんがいます。装置の外見はともにドーナツ型なので仕方がありませんね。
ここでは簡単にこれらの違いについてまとめたいと思います。
CTはX線を用いる検査のうちのひとつです(他にはレントゲン・胃のバリウム検査など)。
MRIは磁場を用いるもので、いまのところ磁場で画像を得る唯一の検査です。
|
CT |
MRI |
用いるもの |
放射線 |
磁場 |
被曝 |
あり |
なし |
検査時間 |
短い 5~15分 |
長い 20~40分 |
検査時の音 |
小さい |
大きい |
見やすいもの |
骨・石灰化・出血 |
軟部組織・筋肉・神経 |
造影時の造影剤の量 |
比較的広い |
比較的狭い |
機械の大きさ (ドーナツ型の部分) |
あり |
なし |
※造影剤は量が少なくても副作用は起こります
※閉所恐怖症の方はMRI検査前に主治医、医療スタッフにその旨を伝えておきましょう
絶食する理由
造影検査を行う場合、副作用が現れて嘔吐する可能性があります。
この嘔吐物が気管へ流れ込んでしまうのを避けるために絶食となります。
ちなみに、造影剤の副作用は脱水状態のときにも発生しやすいです。なので
造影検査がある場合は、食べ物はダメですが、水分は積極的に摂るようにしましょう。
検査前の水分は「水」のみにしておいた方が良いです。
また造影剤を用いない場合でも、主に胆嚢など、腹部が検査目的である場合は絶食となります。
これは、脂質を摂取することで胆汁が腸へ分泌され胆嚢が収縮し画像で見えにくくなってしまうためです。
消化管X線検査
Baバリウムを用いる場合、便秘になりやすいため、検査後は水分をいつもより多く摂るよう心がけるべきです。
日常的に便秘ぎみの方は主治医に相談し、下剤の量を増やしてもらうほうが良いでしょう。
消化管造影検査での生殖腺の被曝線量
|
食道・胃 |
注腸 |
精巣 |
0.004mGy |
3.4mGy |
卵巣 |
0.45mGy |
16mGy |
※患者さんの体格により撮影の条件は変化するため、被曝線量も多くなったり少なくなったりします。
※検査時間(透視時間)の長さ、撮影枚数も、患者さんの身体の状態により変化します。
消化管X線検査(胃)
たばこを吸うと胃液が分泌される
胃Ba検査前には吸わない方が良い
Baバリウムを150~250ml飲み、X線を使って透視しながら検査します。
バリウムを飲み込んで食道を流れていく瞬間も撮影するため、飲んでいるときも身体は動かさないでください。
バリウムを飲む前に発泡剤を飲むことで、胃が膨らんで見やすくなります。ゲップしたくなりますが、検査のためですのでなるべく我慢しましょう。
※誤嚥(気管にバリウムが入り込むこと)してしまった場合は、肺にバリウムが入り込み肺炎を起こす可能性があるため、すぐに医療スタッフに申し出て
咳をして出す必要があります。医療スタッフはすぐに主治医に連絡しなければいけません。
確立的影響
被曝した線量に、生じる病気(発癌など)が起こる確率が比例するものです。
大きく分けて発癌(白血病も)と遺伝的影響(生殖腺の被曝による)
一般的に100mGyを超えない線量での発癌の増加は確認されていません。
確定的影響
身体の各組織ごとに、ある一定の量以上の被曝をしたときに影響が出るというものです。
放射線の影響が発生する最小の線量が存在し、それ以下では発症せず、それを超えると発症の確立が高まると考えられています。
※しきい線量を超えたすべての患者さんに発症するわけではありません。
ICRP(国際放射線防護委員会)では、放射線を受けた人の1~5%に障害が発生する線量をしきい線量と定めています。
放射線を浴びると妊娠しにくくなるのか?子供ができなくなるのか?
まず、被曝する線量は生殖腺に直接放射線が当たる場合に考慮することになります。
たとえば骨盤部のレントゲン、CT検査などです。
一般的なX線検査では
レントゲンで5mGy
CTで25mGy以下であることが多く、普通に検査を受ける上で2500mGyを超えることはほぼなく、
妊娠しにくくなるとは言えません。
ポータブル撮影(病室での撮影など)
検査室までの移動が困難な状態の患者さんなどを対象に、
病室などに可動式のX線装置を運び撮影することがあります。
自分が入院しているときや、患者さんのお見舞いに来ているときに遭遇するかもしれません。
ここで心配になるのが同室者の被曝についてです。
基本的に、このポータブル撮影でのX線の量は、照射野の中心(検査を受ける患者さん)から2m離れたところでは
自然放射線の線量以下になるため、2mの距離をとれば問題ないと言えます。
つまり、複数人が入院している病室などで、検査を受ける患者さんの隣のベッドに居る患者さんは退室する必要はないと考えられます。
しかし、お見舞いの方など、簡単に退室できる方は退室しておいた方が安心だと思います。
自然放射線
1年間に受ける自然放射線の量
宇宙線 |
0.38mSv |
大地から |
0.46mSv |
空気中のラドンなどから |
1.33mSv |
食物などから |
0.23mSv |
合計 |
2.4mSv(E) |
自然放射線は昔から人類が身の回りのものから常に浴び続けています。世界の地域によっては日本よりも年間の自然放射線量が多い地域もある。
また日本国内でも自然放射線量の多い地域と少ない地域があるが、都道府県別に統計をとってもどの地域でもがんや白血病になる
確率はほとんど変わらないという報告があります。(放射線医学総合研究所 調べ)
1990年国連科学委員会報告
なぜ発癌につながるのか?
放射線により、照射された遺伝子は損傷すると考えられます。しかし、損傷しただけで発癌するわけではありません。
細胞には損傷した遺伝子を修復する機能があり、さまざまな方法で遺伝子の修復を行います。
しかしなかには修復がうまくいかないことがあり、うまく修復されなかった遺伝子ががん化する可能性があります。
つまり「損傷する遺伝子が多いほど、がん化し得る細胞が増える」わけです。
これは確率の話であり、こういった理由で放射線による発癌は「確率的」影響ということになります。
ちなみに、うまく修復されなかった細胞は、数回の分裂で活動が止まったり、アポトーシスが起こる。これらの過程からはずれた
ものが更に多くの段階を経てがん化します。